特 集

この、「犬との共生に必要なマナー・家庭犬のしつけ方」は1〜10までをシリーズで載せていきます。

犬との共生に必要なマナー

家庭犬のしつけ方 8  

『ハウス』はプライベートルーム
 『放し飼い』が、犬にとってよい飼い方と思っている愛犬家の方が、多くいらっしゃるようです。広いところに放して飼うということは、犬が自由にのびのびと動き回り開放的でストレスもなく良いはずなのですが、家庭犬として犬を飼いはじめ、しつけをしていく場合、放し飼いすると色々な問題行動が発生し、しつけが困難になるのです。室内飼育ではまずトイレのしつけに手こずり、なかなかトイレのしつけがうまく出来ない方々のご相談では、100%が放し飼いにしているのです。室外飼育の場合は無駄吠えや呼んでも来ない、庭に穴を掘ったり植木などをいたずらし、破壊活動に発展するのです。

 犬を放し飼いにするということは束縛を解いて自由が与えっぱなしの状態になり、潜在していたはずの先天的にもっている能力、いわゆる本能が野性的に蘇るのです。犬をこのような状態で飼育していれば、人と犬とのよい関係・恩愛の断ちがたいつながり、絆を築くことが不可能なのです。

 犬の祖先はオオカミである、と言われていますが、そのオオカミのもつ本能と習性が、いまだに我々の飼い犬に受け継がれているのです。その偉大なる犬の大先輩のオオカミ君たちは、大自然の野生の中でどのようにして生まれてくるのかというと、斜面に横穴を掘り穴蔵を巣としてその中で繁殖するのです。そしてその横穴の巣を中心として群棲するのです。その領域には、他の動物や天敵が近づくことが出来ないように群れで護るのです。生まれた子犬たちは横穴の巣を中心にして、発育とともにその行動半径を広げていくのです。群れが狩をするために移動する時も、横穴の巣と子犬たちを護る母犬以外の護衛役・見張り役のオオカミがその留守をしっかり護るのです。これが社会的本能の中に備わった警戒本能と防衛本能なのです。外敵から身を護り安心して休める場所が巣であり、飼い犬のハウスなのです。
犬を飼う方は、室内でも屋外でも、一応ハウスを用意されるのですが、上手なハウスの選び方と使い方をされていないように思われます。私は、一頭のシェパード犬を飼っているお宅に招かれたときに大変驚いたことがあります。そこは五百坪もの敷地があり、広い庭と大きな邸宅の誰もが羨むようなお宅でした。私がその敷地内に入って最初に目についたのが、緑の美しい芝生が一面に植えてある庭の真ん中に畳三帖程の広さの木造の建物でした。私は、なぜ、庭の真ん中にこのような建物が建っているのが不思議でたまらなく、そのお宅の方にこう訪ねたのです。「あの建物は物置ですか?」。するとこんな答えが返ってきたのです。「いいえ、あれは犬のお家なんですよ」。私はその瞬間「ええ?」と、唖然として言葉に詰まる思いでいっぱいでした。なんという事か、一頭の犬のためにこんな建物を建ててしまったとは・・・。話を聞いてみると、犬には広いハウスがよいだろうということで大工さんに頼み、本格的な木造建築で瓦ぶき屋根のハウスを建てたのです。その大工さんはこんな仕事は初めてだ、と言っていたそうです。しかし、大枚をかけ、立派な犬のハウスを用意したのですが、その犬には気に入ってもらえなかったようでした。飼い主さんが何回も「ここがお前のハウスだ」と言って中に入ってもでてきてしまい、邸宅の勝手口の軒下で丸くなって寝ているそうです。犬はこのような立派な広いハウスでは満足せず、満足したのは立派なハウスを建てたという飼い主さんの気持ち、自己満足だけが満たされたようでした。犬の気持ちや本能を正しく理解していれば、このようなハウスを建てなくてもすんだはずなのです。現在、飼い主さんはそのハウスをやむを得ず物置に使っているということでした。多くの愛犬家の方が、ハウスは広い方がよい、狭いところに閉じ込めては気の毒だ、可哀相だと思われるようですが、反対に広すぎては可哀相なのです。私は、前記の家庭犬のしつけ方(7)で申しましたように愛犬家の方がおっしゃる、「可愛い」という部分は判るのですが、「可哀相」という内容の話は理解できません。飼い主さんが勝手に可哀相と思っているだけで、犬にとっては反対なのです。

 人は大きな家、立派な邸宅を持ちたい、広い部屋に住みたいと誰も思うでしょう。そして犬にもと、擬人化した選択をしてしまうのです。反面、犬に対して擬人化をしても良いこともありますが、ことハウスに関しては決して擬人化した考えは良くないのです。犬の祖先オオカミ君は横穴を巣とし、その穴蔵で生まれ育ったのです。犬にも寝れるだけのスペースで囲まれて安心して休める巣、ハウスを提供してあげてください。そして必ずドアの付いている物でハウスに仕舞う習慣を付けていただきたいのです。私は輸送用に作られたクレイトやケージを使用しています。このようなハウスに仕舞われる習慣の付いた犬たちは、閉じ込められたと感じず、ストレスにはなりません。しかし放し飼いを続けていた犬が急にハウスに仕舞われると閉じ込められたことに強くストレスを感じるのです。子犬を飼いはじめたときから仕舞う習慣を身につけさせれば、容易にその習慣はつきます。そしてハウスから出した時に必ずトイレをさせてください。このような習慣を続ければトイレのしつけも簡単に教えることが出来ます。オオカミ君たちも自分の巣やその周囲ではトイレをしないのです。巣から出て離れたところでするので、巣は常に清潔に保たれるのです。

 もし、あなたの犬が病気をしたり大怪我をして動物病院に入院しなくてはならなくなった時、うちの犬は放し飼いだから病院内で放し飼いにしておいてくださいとは言えないのです。入院室のハウスに一頭ずつ隔離され治療を受けるのです。仕舞われたことのない犬はとたんにストレスを感じ病状が悪化するかもしれません。また、あなたが犬を車に乗せて出かける時も、車の中に犬を乗せ走行中に急ブレーキをかけたり、事故にあった時、人はシートベルトで守られますが、犬は大怪我をしてしまうかもしれません。車での輸送はハウスが犬のシートベルトになるのです。私の高校時代の友人がシーズ犬を飼っていて、車で出かけるたびに助手席にポンと乗せていたのです。犬も車に乗ることが大好きなようでした。ある日いつものように犬を車に乗せ自宅を出た直後、脇道から自転車が飛び出してやむを得ず急ブレーキを踏んだ瞬間、助手席に座っていた犬がフロントガラスに叩きつけられ、頸椎脱臼で即死してしまったのです。幸い相手の自転車には衝突もせず人身事故にはならなかったのですが、大切な自分の犬を死なせてしまったのです。友人はその事故の後、私に電話をしてきました。そして彼は「お前の言うとおりにハウスに入れて車に乗せていればな」。私は以前、「フリーにして車に乗せるなよ、危ないぞ」と,彼に言ったことを思い出しました。

 さて、これから犬を飼う方も飼っている方も、ぜひ寝るだけのスペースのハウスを用意して犬を仕舞う習慣を付けてください。最初にハウスを教えるとき、エサをハウスの中に放り込み、犬がエサに釣られ中に入るとバタッとドアを閉めて「ああ、うまくいった」では、この時、犬にしてみれば飼い主は自分をだましたな、と感じるでしょう。この方法で犬に嫌な印象を残すだけで今度はだまされないぞということになってしまいます。


上手なハウス選びが重要

犬が中に入りエサを食べると回転して出て来ますから、今度は入口にエサを放り込み食べた直後にエサを放り込むのです。これを何回か繰り返すと犬は出て来なくなります。中に入っているとエサが自動的に運ばれてくると理解するのです。そうしたら初めてドアを閉めればいいのです。犬の気持ちになって、犬が一番安心して休めるプライベートルーム「ハウス」を提供してあげることは犬との共生に必ず必要なマナーなのではないでしょうか。



【掲載は1999年(社)日本動物愛護協会の発行誌「動物たち」からを承認を得て掲載したものです】
(筆者 PD公認一等訓練士 藤井  聡)

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