特 集

この、「犬との共生に必要なマナー・家庭犬のしつけ方」は1〜10までをシリーズで載せていきます。

犬との共生に必要なマナー

家庭犬のしつけ方 2   <#1>   

 私は、今年の9月(1996年)に開催されたWUSV(世界ドイツ・シェパード犬団体連盟)主催の、訓練の世界選手権に、私の愛犬クーと共に二週間海外遠征に行ってきました。この間の、私とクーとのホテル内での様子を少しお話いたします。

 欧米の人たちは、旅行中に自分の犬とホテルに宿泊するということが常識的な感覚で、また、多くのホテルがそれを許可しております。今回、私はフィンランドのツゥールクという町の、「ホテルランタスピー」というところに宿泊しました。チェックインの際に犬を部屋に連れていってもよいかと尋ねましたら、もちろんOKだということで、早速最初の晩から、私はクーを部屋に入れました。荷物を部屋に運び入れたあと、レンタカーからクーを出し、駐車場近辺の草原で排尿排便を十分にされ、それからリードをつけてホテルに入り、エレベーターに乗りました。私の犬はエレベーターに乗ることは初めてだったので、少しおどおどしておりました。また、部屋に入ると、キョロキョロ辺りの様子をうかがいながら、落ち着かない様子でした。クーにとっては、海外の競技会に遠征するということは初めての経験で、今回のホテルに一緒に泊まるということも初めてのことでした。

 犬に何か新しいことを教えたり、体験させたりするときは、その一番最初の瞬間が非常に大切なものになってきます。それは、犬にとっては、最初の印象というものが、非常に強く残るものだからです。部屋に入った私は、すぐにクーのチェーンカラーとリードをはずし、お前の居場所はここだということをクーにわからせるために、ソファーの横に伏せをさせました。

このホテルの部屋が、運動場や楽しい遊び場ではなく、ゆっくりと静かにくつろぐ場所であるということを犬に理解させようとしたのです。そして、私はトランクケースを開け、黙々と荷物の整理を始めました。

 一段落してからシャワーを浴び、バスルームから出てくると、クーは最初に居た場所におとなしく伏せをしていました。一歩も動いた気配はありませんでした。クーはすっかり落ち着いた様子で、この部屋のこの場所が自分の居場所である、ハウスであると理解したようです。この犬は特別な訓練を受けた訓練犬であるから、このようにお利口でいるのではなく、決して特別な訓練を施した犬でなくても,十分にこうしたことは可能なのです。それには、まず飼い主さんが「犬を無視する」ということ、そして、「話しかけない」、「目線を合わせない」ということが非常に大事なのです。

 私は部屋に入ってから、クーの場所を決めて、そこに伏せと一言だけしかクーに口をききませんでした。あとは一切無視をしていました。クーは私のする行動をずっと目で追っているようでした。しかし、私は一切その目線に対して目をそらし、無視をし続けていました。そうすることによって、逆に犬は落ち着き、安心をするのです。

 犬の社会には、人間社会のように言葉はありません。言葉のかわりに体の表現、ボディーランゲージによって、犬はいろいろなことを感じ、お互いに伝え合うのです。私が黙々とトランクケースの荷物を片づける様子から、クーは「ここに滞在をするんだな」、「ここが我々の居場所なんだな」ということを理解したでしょう。そして、私がシャワーを浴びて、バスタオルを腰に巻いて濡れた頭で出てきたことは、クーにとっては、「日頃、日本で生活している様子、家での生活とほぼ同じように感じられ、そのことによって、クーは安心してホテルの部屋が「我がハウス」と感じることができたのです。


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【掲載は1999年(社)日本動物愛護協会の発行誌「動物たち」からを承認を得て掲載したものです】
(筆者 PD公認一等訓練士 藤井  聡)

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