特 集


犬との共生に必要なマナー

家庭犬のしつけ方 2  <#2>

 その日の夜中、私は時差ぼけのせいか二回ほど目が覚め、またトイレにも立ちました。その時も、クーは伏せたままの状態で,静に休んでいました。翌朝、七時に目覚ましと共にベットの上に起き上がってみると、クーは軽く尾をパターンパターンと床にたたきつけるように振っていました。この時も一切声をかけずに、私はバスルームに行き、顔を洗い着替えをして出掛ける支度をしました。支度が終わり、最後にチェーンカラーとリードを持ち、そのチェーンの首輪がチャリンとなった瞬間、クーは立ち上がり、ドアの方へ歩いて行きました。近づいてきたクーに首輪をかけ、リードをつけて部屋をあとにしました。
 この一晩のホテルでの私の様子を想像していただければ、おわかりになっていただけると思いますが、決して私は犬に甘えた対応はしていないはずです。必要以上に犬をいじくり回したり話かけたりすることが、犬に甘えた生活、対応となってしまい、そのことによって、犬はどんどん飼い主を馬鹿にするような状態になってしまいます。そうすると、必然的に犬は従属的な対応を取らずに、でしゃばったり、生意気な態度をとるようになってきてしまうのです。犬との共生に必要なマナーの中で、犬に甘えた生活をしないということが、とても大切なマナーの一つではないでしょうか。

 欧米の訓練競技会というものは完全にスポーツ感覚で、訓練愛好者たちは、犬とともにスポーツ競技をしているんだという感覚で、競技会を楽しんでいるようです。今回の世界選手権の大会でも、ツゥールクという町のスポーツスタジアムを使用し、競技会が行われております。数千人もの観客が熱心に観戦する観客席の中で、自分の犬を連れたまま観戦するという姿は、よく見かけることができました。今年、たまたま私がスタンドで観戦をしているすぐ通路を挟んだ向こう側の観客席にシェルティーを連れた地元の方が観戦されていました。その犬は、飼い主の足元にきちんと伏せをしたまま、飼い主はビールを飲みながら、訓練の競技会を熱心に観戦しておりました。途中その飼い主が、一切犬に声をかけず、無視をしたまま黙って立ち上がり、そして、その場を立ち去ったのです。恐らくトイレに行ったものか、もしくは売店に何か飲み物でも買いに行ったのかわかりませんが、飼い主はしばらく戻ってこなかったのです。

 飼い主が戻ってくるまでの間、犬は何事もなかったように、そのままずっと伏せていました。戻ってきた飼い主も、黙って同じ場所に座り競技会を観戦し続けていました。その間約十分くらい時間が経過したと思いますが、犬は身動き一つせず、そこで居眠りをしながらおとなしく待っていたのです。私は思わずショルダーバックからカメラを出して、その犬の光景を撮影しました。

 我々日本人社会での感覚では、このような光景に出くわすと、お利口な犬だな、偉い犬だなと感じますが、欧米の人たちにしてみれば、このような光景は日常当たり前の光景であると感じているようです。ですから、周りの人たちもこの犬に近づいてみたり、声をかけてみたり、撫でてみたりということは一切せずに、見て見ぬふりをしていたように思えます。周りの環境、周りの対応が、このような無視をしたような対応をしてくれることによって、その犬は、何の不安感を持つこともなく、じっと飼い主が戻るまで待つことができたのではないでしょうか。

 これが、もし日本人社会の中であると、必ず犬の好きな愛犬家の方が犬に寄ってきて「あら、お利口さんね。かわいいわね。お名前なんていうの」というように声をかけて近づいて来るわけです。そうすると途端に犬は、不安でたまらなくなります。そしてじっとそこで待っているという事に対して、ものすごくストレスがかかるというような結果になってしまいます。

 知らない人からの、そのような対応というものは、その犬にしてみれば、全くセクハラ同様な行為としか感じないのです。
 他人の犬に興味を持ちかわいいという気持ちを抑え、そっと見守ってあげる事も大切なマナーではないでしょうか。


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【掲載は1999年(社)日本動物愛護協会の発行誌「動物たち」からを承認を得て掲載したものです】
(筆者 PD公認一等訓練士 藤井  聡)

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