特 集

この、「犬との共生に必要なマナー・家庭犬のしつけ方」は1〜10までをシリーズで載せていきます。

犬との共生に必要なマナー

家庭犬のしつけ方 4  

 犬の本能と習性は遠い先祖のオオカミから受け継いだもので、様々な用途目的に人為的に改良繁殖されて、現在の家庭犬にも、どんな目的の犬にでも、その本能習性が継承されているのである。

 愛犬家や犬の取り扱い者は、その本能習性を十分に理解し認識したうえで、犬に対応していかなくてはならないと思います。
 犬の本能を大別すると、まず、繁殖本能、社会的本能、自衛本能、逃走本能、運動本能、栄養本能、と大きく六つに分かれます。
 この六つの本能をさらに分類すると、十五もの多くの本能に分類することが出来ます。
 犬との共生にもっとも重要な本能が、大別された六つの中の社会的本能です。
 その社会本能を分類すると、八つに分類されます。

 まず、群棲本能、権勢本能、服従本能、警戒本能、防衛本能、監守本能、闘争本能、帰家本能などです。この中で正しく理解し、認識しておかなくてはならない重要な本能が、群棲、権勢、服従、の三つの本能なのです。

 私は沢山の愛犬家の方から、様々な相談を受けますが、多くの方がご自分の犬に対して、擬人化した物の考え方で、犬に対応している愛犬家の方が、非常に多くおられます。擬人化した対応というものは、犬の本能、習性を理解せず無視していると同じことなのだと思います。それでは飼い主さんと犬との良い関係を築けるわけがありません。擬人化した対応を続けることが、多くの犬の問題行動の発生原因にもなっているのです。
 犬の適性飼養とは、まず、本能と習性を理解し擬人化しない、ということが犬との共生に最も必要なマナーではないでしょうか。群棲本能とは、犬の群れ社会主義で生活し、その群れの中には必ずリーダーとなるボスがいて、強弱の順位を形成し行動します。ボスを頂点とした縦型の社会を築きます。それを順位性(階級制度)といいます。
 犬の群れの中で、自身の順位をいつも認識し、行動しながら強い者に服従し、弱い者に権勢を張ります。これが服従本能と権勢本能なのです。

 気質の強い犬ほど先取り意識が強く、すぐにのぼせ上がったり、図に乗ったりするタイプで、自身の順位性や支配性を発揮し、それを誇示しようとします。先天的に成犬になっても、ペコペコするタイプの犬も少なくありません。鼠径部呈示(仰向けにひっくりかえり腹を見せ無抵抗服従を表現する)は、子犬の時に身につける自己防衛術であり、成犬になってもする犬がいますが、幼形成熟ともいいます。
 いずれにしてもこのタイプの犬の方が、従属的でしつけもしやすく、扱いやすいはずです。前者の気質の強い犬ほど、しつけしずらく、扱いにくいタイプです。もともと強い権勢本能を持ち、それが発達しやすいのです。後者のタイプの犬は反対で、もともとの権勢本能も弱く、発達しずらいタイプなのです。

 人間の持つ本能と、犬の持つ本能は違いますが、人間社会にもこの両者のような、ふた通りのタイプの人がいると思います。
 前者の気質の強い犬タイプの人は、自己中心的な身勝手な自尊心の強いタイプで、他人から尊敬もされず人様に好かれもしないタイプと思われますが、後者の犬のタイプの人は他人に優しく、思いやりのある温情的な人で、人様からも尊敬され好まれるタイプの人のように思われます。いずれにしても、犬でも人間でも、後者の方が良いに決まっています。
 犬は飼い主の家庭内家族を、自身の群れと認識して家人に対応しながら生活しています。このような中で自身の優位、劣位の判断を順位制で行動していくのです。毎日の生活で犬は、飼い主と対応している中で、常時、相手の強弱から自身の優位を先取りしようと行動します。飼い主が犬に甘えた生活をし、犬の言いなりに意思を尊重してベタベタ可愛がってばかりいると、犬は我が意のままに通り、飼い主が従属的な行動をしていると感ずるようになるのです。これが飼い主の従属者症候群なのです。

 すると、犬は自身の優位を感じ始めるようになり、育ててはならない権勢本能が発達し始めるのです。
 権勢本能の発達と共に、拮抗していたはずの服従本能が、徐々に低下し始めるのです。犬の主張や欲望、欲求、意思を、常時満たしてやっていると、犬は群れのボスと認識するようになり活発に行動し始め、飼い主を従属者にしてしまいます。
 そして、犬はリーダーシップを発揮して、群れの統制をとるために飼い主を服従させようとするのです。
 犬の言うことを聞かない飼い主には、威嚇というテクニックを用い、ウーッとうなり声をあげます。それでも怯まない相手には歯を見せ威嚇し続け、それでも服従しない相手には、攻撃してでも統括しようとします。飼い主さんの中には、自分の犬に何かしようとして威嚇され、うなり声を出されたときに、「犬が嫌がってるからよそう」とか、「犬の嫌いなことはしないように」とかで、その場を見逃してしまいます。そうすることが犬にしてみれば、飼い主をうまくしつけたんだ、ということになり、犬自身が優位的立場に立ったと錯覚し、飼い主に対し犬が保護者的な意識を持つようになり、飼い主に接近する人や、犬を、追い払おうとして吠えついたり、攻撃的な行動に出たりするのです。

 犬が家庭内を仕切り、ボスとして君臨するようになると、様々な問題行動の発生となり、このような状態を権勢症候群といいます。問題行動を起こす犬の原因は、大部分が飼い主が犬の従属者として、犬の言いなりに対応し、尽くしあげた結果なのですが、尽くしても尽くしても、犬は恩義を感じないのです。何故ならば、犬が飼い主よりも優位な位置にいれば、犬にしてみれば下位の者が上位の者に忠誠を尽くすのが当たり前なのです。


画 ゆーちみえこ

 愛犬家の奥様からよく聞く話ですが、「家の犬は主人の言うことはよく聞くのですが私の言うことは全然聞かないのです」と困っておられる家庭が多いようですが、なぜそうなるのか?といいますと、犬との接触時間が少ない旦那様は、犬に従属的な対応をとらないのです。その反対に奥様は、一日、お家で長い接触時間を持ち、犬の面倒をせっせとみるわけです。食餌を与えたり散歩に出たり、その対応が従属的で、犬の言いなりになってしまうからで、結果的に、旦那様がボスNO.1、犬がNO.2、奥様がNO.3と、犬の勝手な順位決めでその家庭内の階級制度が確立してしまうのです。

 また、普段旦那様がいらっしゃらない家庭で、権勢症候群が増えているようです。
 それは事故や病気でご主人が入院されたり、また、お亡くなりになってしまったり、あるいは単身赴任されている家庭などで、犬にとっては突然家庭内からボスNO.1のご主人がいなくなったという状況から、早い犬では、一ヶ月後くらいにはその症状が出始め、家長として君臨し始めるのです。ご主人の亡き後または長期間留守の後、犬自身が家庭(群れ)を守ろうと、権勢本能がどんどん発達してきて、このような家庭環境から発生する問題行動には攻撃的行動が非常に多く起きているようです。「今までにはこんなことはなかったのに」近所の人に吠えつき、咬みつき怪我をさせてしまったり、それを制御しようとして自分が咬まれてしまったり等々、しかしどのような状態であろうと、どのような環境であろうと、飼い主さんがしっかりとリーダーシップを取れるような対応を把握して、犬に甘えた生活をさせないことがキーポイントになります。
 そして、飼い主さんは常に犬より優位に立ち、決して、犬可愛さのあまり従属者症候群にならないことが、犬との共生に必要な最大のマナーなのです。



【掲載は1999年(社)日本動物愛護協会の発行誌「動物たち」からを承認を得て掲載したものです】
(筆者 PD公認一等訓練士 藤井  聡)

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