特 集

この、「犬との共生に必要なマナー・家庭犬のしつけ方」は1〜10までをシリーズで載せていきます。

犬との共生に必要なマナー

家庭犬のしつけ方 9  

しつけはリーダーウォークから
 私はしつけと訓練を分けて考えております。
 しつけとは犬に命令や指示を与えなくとも飼い主にとって都合のよい行動を犬が自発的にしてくれる、犬が日常の生活の中で自発的に従属的な行動を取ることができる、飼い主や特定の人だけに従うのではなく、どの人間にでも従属的な犬に教育することがしつけなのです。

 訓練とは、犬に命令や指示をして、そのとおりの動作や行動をさせ服従させることなのです。飼い主や指導手の目的とする作業を犬が、声符や視符に従い行動するのです。声符とは言葉の命令で、視符とは手の合図のことです。声視符を同時に併せて使う場合もあります。このように服従訓練では何らかの声視符指示を犬に与えて服従をさせるのです。訓練を始める場合でも、訓練の入っている犬の場合であっても、その犬を取り扱う人間が犬より上位の順位であることが基本的に重要になってきます。犬は群棲する動物で、その社会はすべて縦社会で形成されています。そして犬たちは縦社会の中で上位のものは下位の者に権勢し、下位の者は上位の者に服従するのです。一頭の犬に権勢本能と服従本能が拮抗しており、権勢本能を抑えることがしつけの部分で服従本能を発達させるのが服従訓練なのです。
 訓練する人や犬の飼い方が、犬より上位の立場でいること、リーダーシップを発揮していることが訓練を始める時や訓練された犬に指示をして服従させる時に最も重要なことなのです。犬にしてみれば相手が自分より下位な人間、もしくは同等に近い存在であれば命令や指示に従わず無視をするのです。どんなに立派な訓練を施された訓練犬であっても、犬は相手によって態度を変えるのです。犬は大変順応性の高い動物です。
ですから人とも共生も十分可能なわけですが、縦社会の順位性は人と暮らしても決して変わることのない本能習慣なのです。その点人間同士は、環境や相手によって上下関係になったり同等な関係になったり互いに失礼のないようにお付き合いしながら対応するのです。ですからこの部分だけは決して擬人化した考え方や対応を犬にしてはならないのです。犬は、飼い主家族の一番下に従属させ順位付けさせて、飼い主と犬がよい関係を築いた上で訓練していかないと学習効果が上がらないのです。なぜならば犬の社会では上位の者は下位の者の言うことを聞かないという原則があるのです。

 近年、日本の家庭内は昔と比べて変化してきてると思います。かつて「男尊女卑」というような男性を尊び女性を軽視する考えや態度が、日本の伝統的な文化の現れだった時代、父親が家長として絶対的な権威を持ち、家庭内は完全な縦型に形成されていたのです。このような家庭に犬が迎えられた場合、犬は家長を群れのボスと認識し、家族の下に従属する犬になるのです。しつけや訓練を特にしなくとも扱いやすい犬になるのです。このように犬が飼われる家庭内の環境が大変重要な影響を与えるのです。近年、日本の家庭内環境が大きく変化し、親子兄弟が平等な横の繋がり、友達的な感覚で家族が生活していれば犬は誰が群れのボスか判らず自らボスに成り上がろうとしてしまうのです。本来犬は頼れるボスに服従し、尊敬できるリーダーを求めているのです。また犬はそうしていることのほうが幸せなのです。犬を飼い、しつけや訓練をすることも必要ですが、飼い主とその家族全員がリーダー的対応に心掛けることが大切なのです。

 リーダー的対応を示すにはまずリーダーウォーク(主導的歩行)をしてください。引き綱を張らずに、犬を無視して無言で犬に逆らって歩きます。犬が前に出れば回れ右をして反対の方向へ進み、左の方へ行けば右の方へと、犬に逆らって歩くのです。散歩のときに引っ張る犬は、ハンドラーを無視し勝手な行動をするのです。犬が人を無視するのなら逆に人が犬を無視してしまえばよいのです。絶対に犬の言いなりには歩かないことです。この時、大切なことは、完全に犬を無視することです。絶対に喋らず、声を出さないでください。それと犬を絶対に見ず、目線を合わせないでください。そうしながら犬に逆らって歩くのです。犬は人間のように言葉を喋りません。その代わりに体表現によって相手に色々なことを伝え合うのです。言って聞かせようとしているうちはことごとく失敗します。言えば言うほど人をバカにするのです。犬に対してああしなさいこうしなさいなどと言えば、その犬にしてみれば下位の者が上位のものに媚を売る態度、媚行動としか感じないのです。もしくは、ピーチクパーチク弱い負け犬が何をほざいているとしか感じないのです。ですから無言で歩くことがより効果を上げ、リーダーシップを取ることに繋がるのです。そして犬を見ないということは、犬の社会ではボスは常に下位の者から注目を浴びているからです。そしてボスは、下位の者を見て、見ない振りをし無視するのです。そのことが相手より自分のほうが上位であるという威厳を示すような表現に繋がるのです。また、目線を合わせないことで対決を避けることに繋がるのです。
 リーダーウォークをして犬に逆らって歩いても犬が人に対して不信感を抱くことはないのです。飼い主家族全員でこのリーダーウォークをするのです。室内飼育の小型犬でも、室内で狭い範囲内でかまいませんので行ったり来たりすればよいのです。早ければ10分もリーダーウォークをすれば、犬の態度ががらっと変化してきます。どうしてもこうしてもこの人には付いて歩くしかないと犬が納得するのです。すると犬は人の顔色を見るようになり、人の表情を伺うようになるのです。こうなったとき人と犬との主従関係が確立し、それまでわがまま犬であっても一瞬にして主従が逆転するのです。人が主に、犬が従に、主人とその家来という関係が発生し、それから犬に何か教えていかないと学習効果が上がらないのです。


画 ゆーちみえこ

 リーダーウォークが完全にマスターできれば、犬が人にとって自動的に良い行動をするようになるのです。黙って歩き出せば犬も付いてきて、人が止まれば犬も自動的に止まり、チョコンと座るようになるのです。このような状態になれば犬と共に商店街に出かけ、ウインドーショッピングもできます。こっちの店あっちの店と、ウインドー内の商品に魅了され夢中になっている間に、犬を連れて歩いていることさえ忘れてしまいます。犬が人に従属的であるからこのようなことが可能になるのです。

犬は潜在的に人に従属する能力を持っているのですから、リーダーウォークをしながらその能力を引き出してあげればいいのです。

 服従訓練のその課目に脚側行進という、人の左側に「アトへ」という声符によって付いて歩く課目があります。犬の前胸と指導手の左膝がぴったりと並び、歩度の変化があっても左右に曲がっても、犬が遅れることなく、出過ぎることなく付いて歩かなくてはならない課目です。私はこの脚側行進を犬に教える前に、しつけの部分でのリーダーウォークを完全にマスターさせ、犬が自動的に付いて歩くようになったら、今度は犬を見ながら「アトへ」と言う訓練に入っていくのです。しつけにしても訓練にしても、このリーダーウォークが最も大切な基礎になるのではないでしょうか。あなたもぜひご自分の犬に試してみてはいかがですか。



【掲載は1999年(社)日本動物愛護協会の発行誌「動物たち」からを承認を得て掲載したものです】
(筆者 PD公認一等訓練士 藤井  聡)

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